「恋の花詞集」 | 月灯りの舞

月灯りの舞

自虐なユカリーヌのきまぐれ読書日記

少し前の日記で
「どうにもとまらない歌謡曲―七〇年代のジェンダー」

http://tsukiakarinomai.ameblo.jp/tsukiakarinomai/entry-10049911205.html

という本の感想をここにも書い時、
この本の著者様よりコメントをいただいた。


びっくりしたけど、とっても うれしかった。

そして、次の文庫本をオススメくださった。


おススメされると弱い。


しかも 私の本の感想を読んで、私の「感性」ってものを
わかっていただけたのだろうか……気になるし。


それを確かめるべく、早速 その文庫本を購入。

実は、ちくま文庫の方だったりして……(笑)
 
 ↓

「恋の花詞集―歌謡曲が輝いていた時」
  橋本 治:著
  筑摩書房(ちくま文庫)/2000.4.10/880円


恋の歌詞集

『青葉茂れる桜井の』から『霧深きエルベのほとり』まで
64曲を年代順に、その歌謡曲に秘められた「想い」を探る。
歌謡曲には大切にしたい「感情」が潜んでいること、
絵空事だからこその「真実」を曲それぞれの時代の
芸能や風俗と共に描く。
            <裏表紙より>  



いやあー、文庫なのに880円。
分厚くって読み応えありすぎ。


紹介されている「歌」は本当に古い。
(昭和の初めから昭和40年頃までの歌)


だけど、名歌や大ヒット曲、唱歌など有名な
曲が多く、その時代、時代を見事に反映している。

やはり、著者の言葉へのこだわり度合いが深い。

なんたって、橋本治ですもの。
私はこの方の「愛の帆掛け舟」が好き。
めくるめくアブノーマルな愛の世界が堪能できる。


そんな著者だから、言葉選びも奥深い。

歌詞からものすごく背景や真の意味、裏の裏まで
読み解いていくのが鋭い。


例えば 古賀政夫 作詞・作曲の「影を慕いて」


  永遠(とわ)に春見ぬ わが運命(さだめ)
  永ろうべきか 空蝉の 
  儚き影よ わが恋よ


というフレーズ。
永遠の悲恋ものとして認知されているけど、
著者は「かなりへんです」と言う。
絶対に口にすることのできない恋だと“禁断の恋”
だと思うのだけど、相手が見えない。


女が歌うと、相手は「男」になるけど
男が歌うと、相手を「男」としてとらえる
「同性愛者」と解釈もできるが、
著者は、これは「自分」と言う。

慕うべき影というのはとうの昔に失ってしまった
「自分」であると。


と、まあ こんな感じで歌詞からディープな
物語を感じさせてくれる解釈が多い。



一番多く登場する 詩人でもある作詞家 
西条八十の歌詞も多く取りあげている。
「愛して頂戴」は“とんでもねー アブナイ女の歌”と。


「南国土佐を後にして」は、当時の歌謡曲の映画化という
視点でとらえ、大ヒットの秘密や歌手についても語る。


ただの歌詞解釈だけにとどまらない方面にまでも
話が及ぶ。


「テネシーワルツ」は原曲は“女性の失恋の歌”なのに
“失恋した男の嘆き”を入れて 男の歌に変え
江利チエミに歌わせている深層とかね。


日本レコード大賞の第二回の大賞曲「誰よりも君を愛す」
歌謡曲の流れを変えていく曲だと。


日本的情緒を脱出させ、水商売の女の悲哀ではない
もう少し一般的な恋愛の世界を歌うようになったという。
だから具体的な気恋愛のシチュエーションを描かないで
「愛するものの心理」だけを歌う「究極の愛の歌」として、
登場したという。



あなたがなければ 生きてはいけない
あなたがあるから 明日も生きられる
ああ いく歳月 変わることなく
誰よりも 誰よりも君を愛す


         「誰よりも君を愛す」
           作詞:川内康範


重い想い。

演歌魂炸裂……。


--------------------


他にも 歌謡曲 関連本

★「歌謡Gメン あのヒット曲の舞台はここだ!」( 著者:テリー伊藤 )
http://ameblo.jp/tsukiakarinomai/entry-10008052242.html


★「ユーミン「愛」の地理学」松任谷由実「私」という至福の空間
http://ameblo.jp/tsukiakarinomai/entry-10019610105.html