「どうにもとまらない歌謡曲」「「ああ詞心(うたごころ)、その綴り方」 | 月灯りの舞

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自虐なユカリーヌのきまぐれ読書日記

「どうにもとまらない歌謡曲
   ―七〇年代のジェンダー」
  舌津 智之:著
晶文社/2002.11.1/1900円


どうにもとまらない歌謡曲

男女をめぐるさまざまな意識が
変わりはじめた七〇年代。
歌謡曲もまた日本の音楽史のなかで、
劇的に変化した時期だった。

歌謡曲という大衆芸術は、
今日にいかなる遺産を残したのか。
阿久悠、松本隆、阿木燿子らの詩、
ピンク・レディー、桑田佳祐、太田裕美らの
歌を丹念に読みとき、男女間の変遷を掘りおこしていく。
           <表紙折り返しより>


歌謡曲とは戦後日本において最強の思想だと
語る著者。
小説や映画や演劇は観ない人は観ないけど、
歌謡曲というのは、ヒットすると広く国民に
浸透し、共有されるからだという。

そして文化的観点から70年代の歌謡曲をひもとき、
特にジェンダー的(男女観)に歌謡曲を読み解く。


サブタイトルが、歌詞の引用になっているとこも
おもしろい。


第一章「愛しさのしくみ」の
「1・愛があるから大丈夫なの」では結婚という
強迫観念についてを語る。


花嫁、嫁をキーワードにした歌詞から、
「恋愛と結婚の違い」や「結婚の形態」の移り変わり
や歌われ方をみている。


「2・あなたの虚実、忘れはしない」では
母性愛について。
「パタパタママ」や「おかあさん」「秋桜」など
名曲にみる母の描かれ方から女の生き方を解説
している。


斉藤こず恵が歌った「山口さんちのツトム君」
ママの“田舎へ帰った事情“を推測しているのには
笑った。


そして、ユーミンのヒット曲「ルージュの伝言」
マザコンソングであり、皮肉な母子関係を表すと
よみといている。

第二章「越境する性」では、歌詞の両性具有性や
男歌、女歌について取り上げ、ジェンダー交錯歌唱
の歌なども紹介している。


例えばサザンの「勝手にシンドバッド」
一人称が「俺」で、論理的には男が語り手なのに
不釣合いな女性語尾が使われているとかね。


そして、桑田はジェンダーのみならず、
セクシュアリティの再定義も促すと著者は延べる。
なんたって、「男も濡らす」し「女も立たす」で、
これは性の流動化であると。


読みようによっては、「あげ足取りか?」と
解釈されてしまうかもしれないけど、
こんなにこと細かく、歌詞を分析していくのは
とても興味深い。


それに、そのうわべの歌詞だけをなぞるのではなく、
歌手の本質的なことや背景も踏まえた上で
語っているので奥深い解釈となっている。


割りとオカタイ解釈論の本ではあるが、

笑える箇所が多かった。

とりあげられている歌のほとんどの歌を知っている

私にとっては、ここまで歌謡曲を徹底的に

文化的に解釈している

著者の想いに共感し、楽しめた。



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もう一冊、歌詞読み解いている本。
こちらは、実際に作詞作曲をしている著者なので
また観点が違う。
年代も80~90年代の曲。


「ああ詞心(うたごころ)、その綴り方」
   鈴木 博文:著
ソフトバンククリエイティブ/1998.11.1/1800円


詞心

ロック黎明期から現在までの音楽史に残る名曲の数々を
ムーンライダーズの詩人/鈴木博文が読み解く。
早川義夫「サルビアの花」、遠藤賢司「カレーライス」、
はっぴいえんど「風を集めて」、ムーンライダーズ「鬼火」、
RCサクセション「トランジスタ/ラジオ」他
                <帯より>


それぞれの曲をとりあげ、どの部分が素晴らしいか、
独創的なのかを音楽的見地から語り、
自分のその曲にまつわる思い出や
アーティストとのかかわりをも語っている。


「誰でも詩人だ」でも「作詞には才能が必要」という著者。
感動は誰もがするが、それを自分の言葉で吐き出すには
どうしたらいいのかと……ということを自分の体験の場合
としてつづられている。