「編集者という病い」 | 月灯りの舞

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自虐なユカリーヌのきまぐれ読書日記

「編集者という病い」
  見城 徹:著
  太田出版/2007.2.17/1600円

編集者という病

顰蹙は金を出してでも買え!!
僕はこうやって生きてきた。
いや、こうやってしか生きられなかった。
      <帯より>


とにかく大迫力の人である。
誰にもまねできないほどの努力と情熱をもって
接して来て、「結果」を出し続けてきた
編集者の自伝的エッセイ。
というか、生き様本。



何冊ものミリオンセラー本を出し、
幻冬舎の設立と快進撃を続けている著者の生き方に
圧倒され、一気に読んでしまった。


坂本龍一、石原慎太郎、村上龍、五木寛之、
などの深い交流と人間ドラマがたくさん書かれている。


誰しもが、彼に頼まれたら、本を書かずには
いられないような力、人の心を動かす力が、
この方にはあるのだろう。


一人を有名にすればつぎにまた新しい原石を
探しに出かける。
会社のレッテルでは仕事をしない。
それが、見城が思い描き、実践しつづけてきた男の美学だ。

と、ある。

角川だったらやりましょう」という作家とは仕事を
しなかったという見城氏は常に安息の地から脱出
したかったのだと語る。


中上健次が酒場でケンカをした時、示談金30万円を
貸した見城。
中上は、「芥川賞を獲ったらその賞金で借金を返す
といい、本当にとり、二人で声をあげて泣いた
という話は、すごく感動的だった。



ユーミンの最初の自伝エッセイ「ルージュの伝言」の
話も興味深い。
自らの著作は一冊も出していなかったユーミンは
見城の想いに動かされ、出版のはこびとなる。
だけど、直前になって、ユーミンは

やっぱり、私は音楽だけで表現しないと、
私の音楽自体が死ぬ」
と、


費用を弁償するから
出版はとりやめて欲しいと頼む。

見城とユーミンの葛藤があったが、結局
ユーミンがおれ、「出す以上は売ってよね」となったという。
150万部の大ベストセラー本になった。



そして、一番ページをさいていたのが、尾崎豊。


尾崎との出会いから仕事ぶり、別れの話は深く重い。
ステージに立ち大勢の前でパフォーマンスする尾崎と、
小説や詩を書く時の内面に向かう尾崎の違い。
要するに躁鬱を繰り返す。

どんな表現分野においても本質の一番根のところまで
おりていくから、どんどん苦しくなっていく尾崎を
いつも間近で見ていた見城ならではの、尾崎との日々は
せつない。


劣等感の塊だった少年時代のエピソード、
本物の表現者じゃない偽者であることのさもしさ、
著者の内面の負の部分もさらけ出している。

でも、とにかく、自分が感動し、心が震えたものを
世に知らしめたいという想いだけで
やっているという。

それが寂しさを埋める一番の方法であり、
そのためならどんな大きな苦しみも負う価値があると語る。


膨大な記事やインタビューから、編集しなおしているから、
ダブりや矛盾も多い本ではあった。


同じ話を何度も読まされるのは、ちょっとと思ったし、
編集者として、どうよとも思うけど、
迫力に圧倒されてしまうから、まあいいかな。



最近、尾崎豊のベストMDをもらって
聴きなおしていたので、この本の尾崎のところは
興味深く読んだ。


詩を作ってメロディにする以外に、彼には
信じるものがなかった。書くことによってしか
救われなかったから、あれだけ切ない人の胸を
打つメロディラインや詩ができる
」と見城氏が言う
尾崎。


本のあとがきより
人生も、すなわち仕事も恋愛も同じです。
痛みのないところに前進はない。



ozak
「OZAKI」文藝別冊 KAWADE夢ムック
(河出書房新社/2001.4.20/857円)



尾崎豊
「再会 尾崎豊 封印を解かれた10万字」
(ロッキンオ/2002.3.30/1800円)



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編集者、昔の私のあこがれの職業だった。
大学時代、短期の「エディタースクール」に
通ったことがある。