「性格交換」 | 月灯りの舞

月灯りの舞

自虐なユカリーヌのきまぐれ読書日記

「性格交換」
   吉村達也:著
(ハルキ文庫/2007.6.8/630円)



性格交換.

ネットに渦巻く異常性格の罠!
こんな私を変えてみたい
誰もが一度は抱く変身願望
そこに潜む恐怖の落とし穴。
          <帯より>


礼子は、自分の陰気で地味な性格がイヤで
夫にも嫌われていると感じ、性格を変えたい
と思いネットにある有料サイト「性格交換案内所」
という奇妙なサイトに近づく……
という話。


性格というのはそうそう変えられるものではないから、
自分の性格を変えていくのではなく、
別の人との「性格」を交換してしまうというシステム。

ただの怪しいサイトなのか、詐欺サイトなのか、
このシステムについてはなかなか明かされず、
ひっぱる。

そして、その謎が明かされない時にそのサイトを利用し
「性格交換」をしたとされる人物による殺人事件が続く。


臓器移植のように「性格」を交換するというSFな
話ではなくミステリーである
というより、ジャンル分けをするなら
サイコホラーサスペンスかな。


謎解きだから、ネタバレするとおもしろくないから、
ストーリーは書かないけど、一気に読ませる展開。


さすが吉村達也のミステリーの幅は広い。
本格ものから、ホラーまで軽いのから重いのまで多作。
もう何十冊と彼の作品は読んでいるが、安心して読める作家の一人。


かなりリアルな話であり、ネットで日記を書いたり、
ミクシイでメッセージしたり、コメントしりしている人
たちにとっては、ものすごく共感できる話であり、
恐さも実感できる話である。


最後は、女心のわからない男にとっては、
かにり怖い結末である。
よかれと思ってしたことが、相手にとっては屈辱的なことに
なっていること、女性心理の難しさにおののくかも。

素直な心の人は読まない方がいい。
人間不信になること間違いなし。


ストーリーそのものとは別に「性格」についての話が
いろいろ興味深い形で表されていて考えさせられた。


堅物で何事に置いても完璧を求める男が
「柔軟になれ」と遊び人の男に浮気をすすめられる。
三人の女とつきあっている遊び人の男は、それぞれに
キャラを変えているからおもしろいのだと。

そして、堅物の男が浮気相手に選んだ女は美人で
素直な明るい女。
陰気で暗い妻とは正反対の女で、妻と別れてその女と
一緒になりたいと思うが、実はの女にも別のキャラがあることが
わかって愕然とする男。


そういう面でみるとやっぱり、男より女の方が
キャラの使い分けは上手いのだろうなと思う。
男は欲望に負けがちで見失ってしまうところが多いのかな。
女は相手に飽きてしまうのではなく、相手に合わせて作っている
自分のキャラに飽きてしまうことが多いらしい。


立派な政治家の裏の性癖や性格のいい上司の裏の願望など、
人の「もうひとつの顔」や「悪魔の部分」をもつ人たちが
何人も登場する。
それは決して特殊な人ではなく、身近にいる人たちなのである。


ネットと現実の境が曖昧になってる今、そういう人たちの
欲望や裏の顔はいろんなカタチであらわされていくという
ことも興味深い。


最初に女性同士のメールのやりとりで始まるが、
メール文というのは、顔に人柄がでるように
ネットの中では、人柄がでる部分だという。


ミクシイのコメントでも相手のキャラに合わせて
コメントの文体を変えている人は多い。

性格はなかなか変わらないけど、相手に合わせて
キャラを変えていくという発想のとこは自分と重なる。
それが極端になっていくとヤバイ人になっていくのもわかる。

本書の最後に性格についてのまとめのようなのがある。
その中に
人は対立する性格因子の両方を必ず持ち合わせており、
その配合のバランスによって総合的な人格がうまれる
」という
性格の真実という言葉に納得する。