「魂萌え!」 | 月灯りの舞

月灯りの舞

自虐なユカリーヌのきまぐれ読書日記

「魂萌え!〈上〉〈下〉」
  桐野 夏生:著
  新潮文庫/2006.12.1/514円





魂萌え原作 うえ.jpg
魂萌え原作

「平凡な主婦」が直面せざるを得なくなった
リアルな現実。
もう「妻」でも「母」でもない彼女に、
未知なる第二の人生の幕が開く。
         <帯より>


先日、映画を観てから、原作を一気に読んだ。


ほぼ原作に忠実で、原作からいいとこをチョイスして、
うまく味付けしている。


だから、原作は映画をなぞるという感じで、
純粋に小説を楽しむというふうに読めなかった。


映画が中年女性への応援歌的で、自立する女を描いていて
「歳をとるのも悪いことじゃない」
「悪いことがあっても、乗り越えればすてきな
明日が待ってる」「谷もあるけど山もある」的な
読後のいい作品にしてあったが、原作はちょっと
どよーんとしてしまう。



桐野夏生の作品は、ブラックワールドとホワイトワールドに
分かれるが、これはホワイトの方。


だから、他の桐野作品に比べたら、毒も闇も少ない。

「グロテスク」 「アイムソーリーママ」のような
救いのなさというか、底抜けな女の怖さ、酷さみたいなものは
ないのだけど、逆に身近な話だけにリアルでおこりそうな
女の醜さを突きつけられる。



妻と愛人の戦いというのが大きなテーマであるのだが、
逆にその部分がきれいに見えるほど、
他の部分の醜さが際立っていた。

実の子どもとの争い、嫁との争い、女友達との争い
というのが心情が詳細に描かれているだけに、
読むのがイヤになるほどだった。



映画で、夫が死んで愛人の存在が発覚し、
愛人が自宅に来るシーンがある。

ここで妻と愛人は初対面する。
その時、愛人の方が白髪交じりで明らかに
妻より年上であることを見せる。

でも、愛人は、黒い喪服に黒のストッキングに
真っ赤なペティギュアをしている。

このシーンは台詞はないが、妻は愛人の脚をみて
はっと息をのむ。



原作では
黒いストッキングからペティギュアが透けている。
敏子は慌てて目を逸らした。伊藤は自分より年上かも
しれないが、現役の女だと思った。敗北感が強まり、
敏子は腰が引けるのを感じた」
と書かれている。


(敏子=妻/伊藤=愛人)



そして、夫は心臓麻痺での突然死だったことで


主人、あなたと無理したんじゃないんですか」
敏子は暗に性関係を匂わせた。
伊藤は察しよく目を伏せた。

という描写がある。


浮気相手がどんな相手だったら、ショックだろうか?
友達の間で聞いたことがある。
でも、「どんな相手であろうとバレた時点で終わり」
という意見が圧倒的。
「バレるならするな」「やるなら絶対バレナイようにして」
というのだ。

参考にならん……。



この話は、10年間も愛人がいたことを妻は知らなかった
という設定だ。
この夫はうまく両方を大切にしていたのだ。
というか、妻が夫に対してどれだけ無関心だったのか
ということでもあるのだろう。



だからというわけではないのだが、
妻と愛人の対決シーンもありきたりの感情丸出しの
ものではない。

その分、深くせつなくもあるのだが。
歳をとって分別もあり、自分の感情をある程度は抑えて
きた女同士というものだからこそ分かり合えることも
あるのだろう。



不満がなくても向こうからやってくる運命には
抗えないのだ」
という著者の言葉が身にしみる。



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