「忌憶」 | 月灯りの舞

月灯りの舞

自虐なユカリーヌのきまぐれ読書日記

「忌憶」
小林 泰三:著
角川書店/2007.3.10/514円



きおく.

脳裡にこびりつく禁忌の三重奏…
         <帯より>


著者初の連作ホラー短編集。


三編とも「記憶」というモチーフで
作者ならではのホラーの味付けと仕掛けが
ほどこされていて、現実と幻想の世界を
さまよいながら、作者の狂気の世界を堪能できる。



一話目「奇憶」
字のごとく奇妙な記憶の話。
主人公、直人は、普通の大学生だったはずなのに
だんだん生活が荒れてきて、転げ落ちるように
悲惨な生活へと転がり落ちていく。


あまりにすさんだ生活の描写は、気分が悪くなりそうである。
直人は幼い頃に見た夢の中を彷徨いながらも、記憶の中と
現実とが交差していく。

「物心」というものはいつついていき、
その後の人物の記憶にどう影響していくのかということを
考えてしまう。


著者の「脳髄工場」のインパクトが大きかっただけに
この一話目はちょっと印象は弱いのだが、気持ち悪さ
というかゲンナリ度は高い。


二話目は「器憶」
これも文字通り、「器(モノ)」に宿る記憶という意味合い。
腹話術の人形の話。


腹話術モノは映画や漫画でもいくつもあるし、
大体ラストは想像がつくと思うが、これもホラー度が
高く、不気味である。
よく読まないと、ちよっと頭が混乱しそう。



三話目は「垝憶」
主人公は前向性健忘症という、今覚えたこと、経験したことを
数分後にはすべて忘れてしまうという症状の男。


“「メメント」という映画の主人公と同じ状態になっている”
と書かれたノート。
そのノートに自分の記憶を書き込んでいく。


ノートを頼りに自分の“記憶”を反芻していきながらも
忌まわしい出来事をこなしていき、真相があかされていく。



ホラーといっても化け物じゃないだけに、
余計にリアルで怖い。

あまり後味がよくないが、記憶は受けつがれていくものなのか、
人間は「記憶」によって自分を認識するものなのかなど、
記憶の曖昧さ、怖さについて意識させられる本だった。