「悪女の秘密」 | 月灯りの舞

月灯りの舞

自虐なユカリーヌのきまぐれ読書日記

「悪女の秘密」
  新津 きよみ:著
光文社/2007.4.12/571円


悪女の秘密

心の奥底に封印した過去、口にできなかった一言、
それが解き放たれるとき、普段の風景は恐怖の色に
塗り替えられる…。
日常に潜む殺意を描く十一編。 <裏表紙>



文庫オリジナル。


新津きよみは多作で、好きな作家さん。
もう20冊以上は読んでいる。
サスペンスから、ミステリ、ホラー、耽美と
ジャンルも幅広い。

それに女の感情描写がとてもうまいので、
リアルに感じられる。


これは短編集。
どの女も普通の女だったのに、あるきっかけで
“悪女”となってしまう。
男への復讐だったり、女へのあてつけだったり……。


一番壮絶だったのは「二人旅」。
妻子ある人を好きになった女が、男の妻から
「一緒に旅に行ったら、離婚してあげる」と誘われる。
そして、言葉に従って女二人で旅をするという
怖い話。
女にとって、一番ダメージを与える方法というのは
これだろうなと思う結末。
嫉妬に狂った女は怖いよーという話。


「女に向いてる職業」はミステリ。
Aのアリバイを証明するためには、
Bの出来事を話さなければならないという感じの
罠にはめられていく男。
女が男に仕掛ける復讐劇は、女には痛快ミステリでも
男にとってはホラーでしかないね。


「頼まれた男」というのもブラックファンタジーと
いうか、ちょっとシュールというか、ある意味SM的
要素を含んだ謎のミステリ。

“愛しているなら、私を……”と、女は男に何と
頼んだのかが鍵。


あとがきで著者が
テーマが先にあって、それに応じて物語を
組み立てるのが性に合っている
」と述べている。

短編を多く読み、さまざまな短編を多く書かれている
だけに、著者の作品はどれも勉強になる。


解説で野崎六助も
「ミステリの書き方講座」の受講女性の間でも
新津支持率はきわめて高く、手本にするには

最適だと述べていた。

日常のちよっとした話なので、誰でもすぐに
書けそうと思うが、やはり、切り取り方、
心理描写がセンスの分かれ目なんだろうな。


しかし、女の怖さというものを改めて知る。

欲望のままだったり、愛というエゴをふりかざしすぎると
結局は、自分にも跳ね返る。
快楽を得ることで大きなリスクを背負う覚悟を
しなければならない。
人の感情なんて、絶対コントロールできないし、
わからないのだから。


奪い、奪われ、傷つけ、傷つけられ、
誰かの幸せの裏には誰かの不幸が
潜んでいることもあるのだ。

男と女の愛憎劇。

深く愛すれば愛するほど、うまれる憎しみも大きい。
愛の反対が「憎しみ」ではなく、愛の中に「憎しみ」は
含まれてしまうのだ。

その憎しみは相手に向けるか、自分に向けるかも問題。

憎しみを消すには、心を閉ざしてしまうしかない。
愛の反対は「無関心」だと思うから……。