「差別と向き合うマンガたち」 | 月灯りの舞

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自虐なユカリーヌのきまぐれ読書日記

「差別と向き合うマンガたち」

吉村 和真、田中 聡、表 智之:共著
 臨川書店/¥2,415/2007.7.30


差別と向き合う漫画

若手研究者たちが「マンガと差別」に
踏み込んだ。マンガ研究の深化がここにある。
ビジュアル文化シリーズ (評論家・呉智英)
              <帯より>


「人権と部落問題」に連載していたコラムに
「もっと考えたいあなたのために」を
加筆したもの。


上記掲載誌はマンガ好きやマンガを読む人
ばかりではないので、マンガ読者としての
暗黙の了解を求める甘えを許さないと
してあるので、少しまわりくどいまでも
「マンガ」についての説明がされている箇所も
ある。


直接、マンガの中の差別表現を指摘して、
論じるという趣旨ではなく、「マンガ」
そのものを説明しつつその中にどういう思想が
反映されているか、「差別」というテーマと
どう深く関わってくかを、各マンガを
例にあげながら、根気よく語っている。


作者は三者三様の専門があり、それぞれの章を
担当し、下記の観点で迫っていく。


①第一章 マンガの文法
「マンガを読むこと」で身に付けてしまう
 価値観や感性とは?


②第二章 マンガと歴史叙述
 マンガは過去の人々や時代をどのように
 描いてきたか?


③第三章 マンガの作品論
 マンガは差別を考えるために役立つのかどうか?



例えば第一章では、マンガの登場人物に与えられる
「型」はジェンダーに基づく役割分担を
になっているということ。

戦隊ものなどわかりやすい例をあげ、
紅一点のチーム編成や、それぞれの見た目の
イメージと役割や力関係を指摘している。


とりあげるマンガは、誰でもが知っている
大ヒットしたマンガから「ガロ」のような
コアな雑誌にしか描かないマンガ家さんのものまで
さまざまで古いものから最新まで
あらゆるものを網羅している。

内容も、ギャグからシリアス、歴史モノ、風刺画、
学習マンガまで幅広い。



第三章の中で「マンガが読者に与える影響」
というのがあるが、その中で
「ビーバップハイスクール」と「湘南爆走族」
の二つのツッパリマンガが取り上げられている。


どちらも大ヒットし、映画化もされているが
両者の違いは何かという切り込みは興味深かった。

前者は心情(内面)をほとんど語らないが
後者は揺れ動く心情を垣間見せているのだという。


読者の生とキャラクターの生と、どう交錯し
共鳴するかが、マンガを楽しむことであり、
どの部分で共鳴するかが重要で、どう影響
するかになってくる。



人々の生活に伴走しつづけるマンガが
どう影響し、関わってくるかを
マンガをどこで買うか、どう受け取るか
など様々観点から読み解いている。


マンガ好きの人にはもちろん、楽しめる本だが、
表現しようとする人にもとても勉強になる本だった。