「良心をもたない人たち」 | 月灯りの舞

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自虐なユカリーヌのきまぐれ読書日記

「良心をもたない人たち
   ―25人に1人という恐怖

 マーサ スタウト:著/木村 博江:訳

  草思社/2006.1.1/1400円

良心をもたない人

うそをつき、空涙で同情を引き、
追いつめられると逆ギレする…。
25人に1人いる“良心のない人たち”の
見分け方と対処法を教える貴重な書。
           <帯より>


原題は、"The Sociopath Next Door"。
『隣のサイコパス』で、「サイコパス」を
「良心をもたない人たち」と訳している。



著者は、精神病院で研修を受け、心理セラピスト
として、25年間に渡り心理的トラウマを抱えた
患者の治療に渡ってきた人。


そして、その間に、多くの患者が、この表題
となるサイコパスに苦しめられている事実に
気づき、この本を発表したという。


そんな著者だからこそ、実際のサイコパスの
具体的実例を詳細にあげて、どういう人間
なのかということを理解しやすくしている。


サイコパスといっても症例は様々で、
残虐行為を行うサイコパスはわかりやすいが、
一見して普通の人とみわけがつかない場合が
困るのである。


それに、そういう人に限って、普通よりも
魅力的だったり、カリスマ性をもっている。

著者は、皮膚や心臓と同じように「良心」は
生まれつき備わっているものであり、普通は
そのありがたみを感じることもないし、
それが欠如している状態を想像しにくいと
述べている。


しかし、その「良心」がないということが、
どれほど危険で、人にどんな害をおよぼすかが
わかってくる。
「良心はなんのためにあるのか」という問いかけに
答えるためにも著者は、サイコパスに警告を与え
対処の助けになるようにと書いたという。



著書の中に「良心の実験」のことにふれている。
被験者(教師役)と学習者に別れて、
問題を解かせ、問題ができないと電気ショックを
与えるという実験。


だんだん電気が強くなっていく。
良心が備わっていたら、電気ショックを与えられた
人の苦痛を見ると、やめるだろうと思うが、
34人の被験者のうち25人(62.5%)が学習者が泣こうが
やめてと嘆願しようが、電気ショックを与え続けたという。

これは、権力者による命令によることが大きい。

「権威」というものがいかに「良心」を眠らせるか
ということがわかる。

これは怖い。
日常においても「仕事だから」とか「上司の命令だから」
「規則だから」で動く人が多い。


これは自分の責任ではないという防衛本能が
良心を麻痺させてしまうのだろう。



映画「es」では、看守と囚人役に別れて実験した
実際の心理テストを元にした映画で、これも興味深かったが、
人の怖さを知る映画だった。



★映画「es」の私の感想
http://ameblo.jp/tsukikagenomai/entry-10002882098.html



サイコパスの中でも一番やっかいで怖いのは「強欲なサイコパス」

と著者は述べる。

人のものを強く欲しがる人だ。
良心がなくて、人のものを欲しがるのだから、
相手の気持ちを考えることなどしないし、手段など
選ばない。

「美しさ」「知性」「成功」「強い個性」など、
盗めないものは、その人を汚したり傷つけたりして、
“奪う”という。


サイコパスは感情をもたなく、人を愛することが
できないだけではなく、人の愛も感じることが
できない。
人として、これが一番悲しいことだと思う。


サイコパスな人は周りに潜んでいると思う。
この本には、そんな人の見分け方や対処の仕方が
書いてあるので、惑わされている人は読んでみると
いいかもしれない。



私はけっこうこういうサイコな人に
関わられることが多かった。
元々そういう素質がある人は避けやすいが、
少しずつそういう面を出していく人や、
突然そうなってしまう人もいるので、
関わりを断ち切ることが困難なことも多かったりもする。


攻撃的であったり、何か仕掛けられたりするのも辛いと
思うが、「感情がなくなった」と言われるのは
本当につらいことだ。

こういう人は自分にしか興味がなくなってしまい
他者と関わることができなくなるのだ。


関わっていた人が突然、「感情をもたない人」
「心を無くした人」になってしまった時のショックは大きかった。

一度そういう人と関わると、この人もいつか
そうなってしまうのでは……と
人と深く関わることが怖くなったりする。


本の中では、第46回江戸川乱歩賞受賞作の
「脳男」(首藤 瓜於:著)が心を持たない男の話だ。
一度読んだ本は全て記憶する特殊な能力を持っているのに
心がない男。


実際にも頭はすごくいいのに、心がない人は存在しているのだ。
「脳」と「心」では、感情はやはり「心」にしか宿らないのか……。


これは外国の話ではあるが、よその国の話とは安心できない。

日本の精神科医の方もこんな本を出している。


★「狂気という隣人-精神科医の現場報告」(岩波 明:著)
http://ameblo.jp/tsukiakarinomai/entry-10006329477.html