「あんこう刑事の鑑識事件簿」 | 月灯りの舞

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自虐なユカリーヌのきまぐれ読書日記

「あんこう刑事の鑑識事件簿」
   菊池 興安:著
   小学館文庫/2003.2/

事件は小説より奇なり。
時効直前の逮捕劇、見合いのあとの暴行事件、
水田に燃え上がる謎の炎、身元不明死体を埋葬
する無念…。
地道な捜査を通して解き明かされる事件の真相、
事故の顛末。
驚くべき犯罪の手口から、憂うべき犯行の動機まで、
そこにはさまざまな人生と地方社会の構図が
凝縮されている。
鑑識課次長をはじめ、茨城県警の警察官として
四十年近くを過ごしたベテラン刑事が、
現場に携わる者ならではの視点で
描き出す、事件のウラの喜努哀楽。
実際の体験をもとに綴られた珠玉のエッセイ三十二篇。
           <裏表紙より>


あんこう刑事のあんこうとは著者の名前 
興安(こうあん)を逆に読んだものだそうで、
顔もどこか魚のあんこうに似ているところから
つけたらしい。
そのエピソードもどことなく人柄をうかがわせる。
事件ものなのにルポではなく、エッセイとしたところが
人間味あふれている。

著者は新聞記者になりたかったらしく、警察官として
働きながらも様様な形で文才を発揮していたようで、
とても丁寧な文章である。
巻末の解説で作家の佐木隆三氏は、「職業作家は
『どうすれば面白い読み物にできるか』と
腐心してしまうが、菊池さんは職業作家に比べて
志が高く作家が書いた刑事ものなどとは自ずから
重みが違う」と高く評している。



現場で実際に事件にふれていないと書けないことも
多く、興味深い。
だが、逆に事件や事故で人の死にふれることで、
死に対して麻痺したりすることもあるかと思うが
著者は、きちんと人を見つめているところが
好感のもてる文章に表れている。

警察官の不祥事が多い中、こういう元刑事さんの
存在は、うれしい。
正義感と人間としての良識あふれる人に活躍して
欲しい。


でも、茨城といえば、あの女子大生殺害事件は
その後どうなっているのだろうか。
茨城県警にはまだ未解決の事件が10もある
らしいが・・・。
            (2004.6読了分)