「物語の役割」 | 月灯りの舞

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自虐なユカリーヌのきまぐれ読書日記

「物語の役割」
  小川 洋子:著

筑摩書房/2007.2.10/680円
  (ちくまプリー新書)

物語の役割

人間は、なぜ物語を必要とするのか?
その秘密を作家が解き明かす。
        <帯より>


作家である著者が、さまざまなところで
「物語」について語った講演集。


以前、ある作家が言ってたが、
「作家」になりたくてなった人と
物語が書きたくて作家になった人とは違うと。
著者は明らかに、物語が書きたくて書きたくて
たまらなくと作家になった方。

物語を創ることがどれほど楽しい作業で、
物語を読むことがどれだけ楽しいことかを語る。


著者の代表作となった「博士の愛した数式」の
誕生秘話は興味深い。

「数学が表す真理というのは、何事にも影響されず、
永遠に真実であり続けるから美しい」という数学者
たちの発想に惹かれ、数学の定理をヒントにして
できたとある。

最初からストーリーがあったわけではなく、
ある一場面が浮かんでいったという。

そして、著者はとても謙虚に語る。

作家は特別な才能があるのではなく、
誰もが日々日常生活の中で作り出している物語を
意識的に言葉で表現しているだけのことだ。
自分の役割はそういうこと……」と。


苦しい現実があって、それを乗り越えるための
「物語」という視点の本もいくつか紹介されている。


「小説というのは言葉で書いてあるのに、
言葉にできない感動を与えなければいけない
不思議なもの」と語る著者は、物語は
作家の頭の中や妄想の中だけではなく、
誰の心の中にもあるものだという。


だから、言葉が浮かぶよりまず、頭に
イメージが浮かぶことが始まりだという著者。

テーマやストーリーも最初から決める必要もなく、
自分の心のカタチに合うように変換していけばいいのだと。

自分の頭の中だけで考えるのではなく、
広い世界を見渡して、「観察者」になれば
イメージが広がっていく。

最終章では、著者の読書風景がつづられている。


自分の体験した苦しい思いをそのままぶつければ
よりリアルの物語ができるだろう。
しかし、その現実を違う形に物語にすれば
また違う世界が見えてくるかもしれない。



私がシナリオを書いて悩んでいる時、
ある人に「シナリオの中だったら、自分の思い通りの
世界にできるじゃないか。果たせなかった夢も願望も
全て叶えることができる」と言われ、楽になった
ことがある。
カタチにこだわることなく、『想い』をぶつけて
いけばいいのだ。


著者の作品は「妊娠カレンダー」と「博士の愛した数式」
の二冊しか読んでいない。
あまりにあっさりしてて、実は印象が薄いのだ。
でも、この新書を読むと、物語への熱いものが伝わってくる。