「残虐記」 | 月灯りの舞

月灯りの舞

自虐なユカリーヌのきまぐれ読書日記

「残虐記」 桐野 夏生:著

新潮社/¥1,470/2004.2.25

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失踪した作家が残した原稿。そこには、25年前の
少女誘拐・監禁事件の、自分が被害者であったと
いう驚くべき事実が記してあった。
奔流のようにあふれ出した記憶。
誘拐犯ち被害者だけが知る「真実」とは……。
             <帯より>




『週刊アスキー』連載に加筆して単行本化。


新潟の少女監禁事件をモチーフにしているが、
現実の事件はあくまでモチーフにすぎない。
なぜなら監禁されている間の出来事よりもそれ
以前それ以後の部分がメインになっていて、
監禁そのもののことより“残虐”なことが
描かれている。


現実の事件を扱うだけに監禁そのものを想像で
描くことは悪趣味な感じがするが、それを
全く別物の話として成り立たせるところが
さすが桐野夏生である。視点が違う。


確かに内容がかなりえぐいので、万人には
おすすめできる内容ではないのだが、普通の
人間が無意識にしている残虐性や性の衝動に
突き動かされる人間の弱さや怖さを突きつけ
られる。



構成の絶妙さもある。
手紙文で始り、この小説の中の現実と主人公で
ある作家の作品、虚構の話などが入り混じって
いてどれが本当でどれが嘘なのかがわからなく
なるというメタ的手法がおもしろい。



監禁するという行為はもちろん酷いことであり
許されることではないが、この小説の中の犯人
がそこに至った経緯は、あまりに悲しくてせつ
ない。

           (2004.12.26読了分)