「MOMENT」 | 月灯りの舞

月灯りの舞

自虐なユカリーヌのきまぐれ読書日記

あなたが余命を宣告されてしまい、
たった一つだけ願い事が叶うとしたら、
何を願いますか?
その願い事は、魔法じゃなくて実現可能なことに
限ります。


先月の旅のお供に読んだ文庫本は
そんなことを考えさせられるお話だった。
本多孝好の二冊目。


「MOMENT」
   本多孝好:著
    集英社/2005.9/560円

moment

その病院で死を目前にした患者だけが耳にする、
「必殺仕事人」の話。
末期患者の願い事を一つだけ叶えてくれるという
黒衣の男がいるという。


病院で清掃夫のバイトをしている大学生の「僕」が
その願い事を叶える男……という連作短編集。


四つの話からなり、それぞれ年齢も性別も病歴も
違う患者たちがそれぞれの願いを語る。
そして、それは叶えられるのか……。


死を直前にして、人は誰を想い、何を願うのか、
希望は芽生えるのか……
ということを読ませてくれ、生と死について
考えさせられる本。


ネタバレはしてないけど、いちおー広義のミステリー
なので、これから読もうとする人で
感のいい人なら、わかっちゃうかも。

なので、これから読もうとする人で、
真っ白な心で読みたい人は、ここから先は禁猟区。


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◆一話目「 FACE」


戦争中に自分が命を奪ってしまった男の
家族の様子を探ってほしいと願う喉頭癌の老人。


ヤラレタ!
素直な気持ちで読んでしまったら、見事に
作者の仕掛けた罠にかかってしまった。

悲しいけれど、人の憎悪というものは持続するもの
なのだろうか。

人は死を直前にすると、「いい人」になるのか
「悪い人」になるのか……読後がせつないが、
考えさせられる話であった。




◆二話目「WISH」


修学旅行で一緒に写真を撮った男を探して
という心臓を患った14歳の女子中学生。


これは騙されなかったけれど、作者は上手いなあと思う。
そして、話自体はこれまたせつない話だった。


人の命の尊さは同じはずなのに、なぜ軽んじる人と
重んじる人がいるのだろう。
生きたい人に限って生きられず、
生きられる人ほど死にたがる。


生と死は常に隣り合わせで、境界線は曖昧だったりするが
死は選択できても
生は選択できないのが悲しいね。


私の父も「病気のデパートやで」というほど
いろんな病気を背負って、身体は手術跡だらけだった。
何度も「覚悟してください」と言われたのに
苦しみながらも生き続けた父。
自殺する人のニュースを聞くたび
「死ぬなら、その元気な身体と交換して欲しい」と
言ってた父。
そんなことを思い出した話だった。



◆三話目「FIREFLY」


一度も見舞い客のない乳癌の女性は何度も留守電に電話し
ているが、本当に逢いたい人は誰なのか。


これも女性としてはせつない話だった。

例え、長くない命だったとしても
凝縮して精一杯生きられたら幸せなのだろうか。
死ぬ時に「いい人生だった」って
笑って死ねたらいいなと思わせる話。


◆四話目「MOMENT」


自分が死ねばいいと殺して欲しいと願う男性の本意は?


これは、中年男性が読むと身につまされる話かも。

人は誰かのために死ねるものなのか。
自分の命より大切なものは何か
考えさせられる。




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http://tsukiakarinomai.ameblo.jp/tsukiakarinomai/entry-10056119690.html