「グレイヴディッガー」「悪党図鑑」 | 月灯りの舞

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自虐なユカリーヌのきまぐれ読書日記

「グレイヴディッガー」
   高野 和明:著
講談社文庫/2005.6.15/667円

グレイヴディッが

「13階段」をしのぐ圧倒的迫力!
空前の疾走感で展開するノンストップ
サスペンス大作。   <帯より>


この本が出た時は、裏表紙のあらすじに
「巨編スリラー」とあったので、
あまり読みたいと思わなかったのだけど、
最近、高野氏の「6時間後に君は死ぬ」と
「幽霊人命救助隊」と続けて読んでおもしろかったし、
高野和明コミュでも評判がよかったので
文庫版を買って読む。


“悪党”である主人公が、過去の罪を償うために
骨髄ドナーになる。


そして、移植手術の日に病院へと向かう途中、
連続殺人事件に巻き込まれ、組織からも追われ、
警察からも追われる身となる。


作者お得意のタイムリミットが設定された、
追走劇。

いろんな乗り物を乗りついて、何度も危機にあいながらの
ハードボイルドな展開ではあるが、やはりユーモアを盛りこんだ
展開でだだの逃走劇では終わらない。
これが作者の持ち味か。


主人公の“悪党”の魅力的な人物にも惹かれるし、
いろんなタイプの刑事もリアルに描きわけられていて、
警察や組織の暗部、確執などにもふれているが、
やっぱり人情派刑事の存在が救いを感じさせてくれる。


作者は映画やテレビの脚本家だっただけあって、
途中で読むのをやめさせないエンターティメント的な
展開や、追走のスピーディさと謎解きを交互にカットバックで
見せる方法で、読者の意識をがっちりつかんでいくのがお見事。



殺人事件が魔女狩りになぞらえたり、
「拷問」「秘密結社」「カルト集団」「復讐」「暗号解読」と、
あやしげな要素がとけこんでいるのも興味深かった。

そして、タイトルの「グレイヴディッガー」とは墓堀人という意味で
死者が蘇るとか、移動された死体とか、ちょっとおどろおどろしい
雰囲気もあるのだが、決して荒唐無稽な話ではない。


骨髄移植、本当の正義、恩人とは何かというテーマも
大きくふりかざされるのではないが、突きつけられる気がする。
命の重みに人格や社会的地位など関係ないことも
改めて思わされる。


他人の命を救うためになぜそこまで命がけで一生懸命になるのか
という動機がうそ臭く、やや無理がある設定ではあるが、
ラスト近くになって、その理由が胸にしみてくる。

そして、ラストは安堵の涙を流し、人間ってまだまだ
捨てたものじゃないと思わせてくれる。


希望を捨てなければ、未来は輝くものにもなりうる。
生きていくために自分が変わらなければならないという
ことがきっとあるはずだ。


魅力的で、憎めない悪党だった。
悪いことばかりしているが、どこかある部分だけは魅力的な
主人公というのはひかれる。

この本を読み終えて、映画「パーフェクトワールド」も
そんな映画だったなあと思った。



その他 高野和明氏の作品の感想



★「幽霊人命救助隊」
http://tsukiakarinomai.ameblo.jp/tsukiakarinomai/entry-10043419805.html


★「6時間後に君は死ぬ」
http://tsukiakarinomai.ameblo.jp/tsukiakarinomai/entry-10041863207.html


★「K・Nの悲劇」
http://ameblo.jp/tsukiakarinomai/entry-10002279424.html




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悪党といえば、以前読んだ本でこんなのがある。


「架空世界の悪党図鑑」
  光クラブ:著
  講談社/2004.12.21/2000円


悪党図鑑

 
望に忠実な生き方……ピカレスクライフに目覚めよ!
「愛すべき悪党は虚構の世界に常に存在し続け、
われわれの心にも常に懐かしく存在し続ける。」
         筒井康隆……巻頭言より抜粋
文学、映画、まんが、アニメ、特撮、ゲーム。
古今東西ありとあらゆる虚構から、集めた悪党396人!!
               <帯より>


悪党をタイプ別に分類したり、各ジャンルごとの悪党を
知力、体力、カリスマ性、ポリシーなどから読み解き、
紹介している。


悪党の名言集やリアル悪党列伝もあって、かなり詳細な
悪党事典となっている。



時には正義のヒーローよりも悪党の方が
人気ものだったりするよね。