「幽霊人命救助隊」 | 月灯りの舞

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自虐なユカリーヌのきまぐれ読書日記

お盆はナーバスになってしまう。
供養するものと供養されるもの、
死んだ人がいないことを認識してしまう……。

そんな時だけど、幽霊ものの話を読んだ。
といっても怪談ではなく、エンターティメント。


「幽霊人命救助隊」

高野和明:著

    文藝春秋/2004.4.10/1600円


幽霊人命救助


自殺した4人の“幽霊”が、“神”に
「49日以内に100人の自殺者を救えば
天国にいかせてやる」と言い、
4人は奮闘して見事100人の自殺者の“命”を救う話。


神に任命された自殺者4人は「RESCUE」と記された
オレンジ色のツナギに身を包み、救助に向かうという
いでたちもおもしろい。


その4人のキャラがおもしろいのと、
死んだ年齢も時代も違うから、
「死語」も入り乱れるし、
一番若い自殺者が21世紀の「現代」を21世紀を知らない人に
説明するくだりもどこかユーモラスである。


「人命」「自殺」「うつ病」という重いテーマを扱って
いるがコメディタッチで、エンターティメントとして
読ませる。

その時々の社会問題、解決方法など、綿密な取材による
文章はリアリティがあり、一緒になって悩み考えさせられる。


連載だっただけに、長いし、途中はエピソードの反復で、
やや単調な部分もあったが、タイムリミット付きの「救助」
という設定、だんだんと救助が困難になってくる展開は、
一気にラストまでひっぱる。


救助隊員は、「幽霊」なので、人の心に入り込み、
モニターすることはできるけれど
物理的に物を動かしたり、人にふれることが
できないので、心に働きかける「言葉」だけがたより。


「魔法のメガホン」で、人の心にささやきかけるこで
自殺を想いとどめるというのがもどかしいが、
万能じゃないところが、より深く様々な問題を考えさせられる。


この救助方法の欠点は言葉をとらえられない人には効かない
ということ。

しかし、それをもクリアしていく。
ややご都合主義、そんなにうまくいかないって思う人も
いるだろうけど、人はほんのささいなことで
死のうとするけど、ほんのささいなことで
生きようともできるのだということを感じ取れる。


途中で、「命」は救えても問題を解決できなかったり、
辛い「魂」は救えない、一時しのぎにすぎないと
救助隊員たちも気づき、躊躇する場面もあるのだけど、
最終的には「死んでいい命なんてない」の一言につきるのだ。

それは、救助隊員たちが、自殺したことを悔いているからこそ
その想いは強いのだ。



障害を持った娘の首をしめ、無理心中をしようとする母親、
病気の痛みに耐えかねて、点滴をはずし自ら命を絶とうとする老婆、
借金苦に残された家族のために保険金のため死のうとする男……。
どれも苦悩に満ち、死にたくないけれど、死のうとする様は
やはり苦しくて涙があふれる。



やはり、一番泣いたのは最後の100人目の自殺者だ。
最後はもう涙があふれた。


エピローグは蛇足だという声もあるけど、
私はこれで救われた気がした。


不確定なはずの未来を、不必要に怖れていると言ってもいい。
 悲観的に見える将来は、同時に好転する可能性をも
 秘めていることに本人は気づいていないらしい

という本文が身にしみる。


辛いけど生きていこうと思う。



★高野和明 最新作「6時間後に君は死ぬ」の感想はこちら
http://tsukiakarinomai.ameblo.jp/tsukiakarinomai/entry-10041863207.html